活性酸素(フリーラジカル)は変異、発癌、虚血、再灌流障害、放射線・紫外線障害など種々の生命減少に深く関与することが認識されるようになっている。私たちはいままで、鉄キレート-剤である鉄ニトリト三酢酸反復投与によるラット腎発癌モデルにおいて、活性酸素がその発癌過程に深く関与することを報告してきた。本研究の最終目標は、上記「活性酸素による発癌モデル」において、rate-limitingとなりうる遺伝子を同定し、その変異や発現機構を解析することおよび活性酸素をひとつの切り口として発癌機構を追究することである。 発癌の標的遺伝子の同定に関して、私たちは以下のアプローチを取った。1)活性酸素の代謝に関与する蛋白・酵素遺伝子の発現の評価、2)p53、rasなど既知遺伝子の変異の解析である。1)では、発癌過程初期よりGSH-S-transferase piの特異的な誘導を見いだした。2)では、低頻度のp53遺伝子の変異を認めた。従って、本発癌モデルの主要な標的遺伝子はいまだ同定されていない。 更に、フリーラジカルの攻撃により生成する産物の検討を詳細に行った。フリーラジカルの標的は脂質・核酸・蛋白質など多岐に渡り、フリーラジカル反応により生成する化合物の報告数は年々増加している。しかしながら、活性酸素のエフェクターとして実際、要となり働くのはかなり限られた分子であることが予想される。私たちはこのモデルにおいて膜脂質の損傷(過酸化脂質)において炭素が2から12の全飽和・不飽和アルテヒドをガスクロマトグラフィーと質量検出器を使用する分析法で定量し、4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだし、更にHNE修飾蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し、免疫化学的応用を行った。
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