研究概要 |
ラット初代培養細胞cDNAライブラリーから我々が新規に分離した遺伝子Drsはv-src,v-rasなどの癌遺伝子や血清刺激によってそのmRNAの発現がdownregulateされる。Drs遺伝子の癌化における役割を明らかにするためにラット正常細胞株に強力なプロモーターのもとでこの遺伝子を強制発現させ細胞増殖能やウイルス癌遺伝子によるトランスフォーメーションに対する影響を検討した。強力なプロモーターと選択マーカーとしてNeo耐性遺伝子を持つpSRaNeoベクターにDrs cDNAを組み込んだ組み換えplasmidを作製し、正常ラット繊維芽細胞株F2408にDNAトランスフェクション法により導入することによって外来Drs cDNAを高発現している細胞株を分離した。これらのDrs高発現細胞株にv-srcやv-K-ras遺伝子を持つレトロウイルスを感染させ軟寒天培地中でのコロニー形成能や単層培養でのフォーカス形成能を調べたところ、外来Drs遺伝子非発現細胞株と比べてこれらのトランスフォーメーション活性の有意の低下が認められた。一方、細胞増殖能や細胞飽和密度は外来Drs遺伝子の発現によって影響を受けなかった。これらの結果から、Drs遺伝子はv-srcやv-K-rasなどの遺伝子によってdownregulateされるだけでなくこれらの癌遺伝子によるトランスフォーメーションに対して抑制的に働くことが考えられる。Drsはその遺伝子構造から細胞膜で外からの何らか(細胞接着など)の刺激にたいするレセプターとして働く可能性が考えられるので、今後この遺伝子の正常細胞おける生理的な機能を検討するとともにヒト癌発生における関与のについても検討してゆきたい。
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