我々は、ラット胎児初代培養細胞(REF)とREF由来の繊維芽細胞株を用いてHPVのE6E7やv-srcなどの癌遺伝子による細胞癌化を抑制する因子がREFで発現していることを明かにし、どのような因子が癌化抑制に関与しているかを解析してきた。その1つのアプローチとしてREFcDNAライブラリーから癌化形質抑制に関与する遺伝子のクローニングを試みてきたが、その過程で新規に分離した遺伝子drsはC端に膜貫通ドメイン、N端に接着因子であるセレクチンファミリーに保存されている補体結合モチーフを持ち、ラット繊維芽細胞においてv-srcやv-rasなどの癌遺伝子によってそのmRNAの発現がdownregulateされるだけでなくこれら遺伝子による細胞癌化に対して抑制的に働くことを明かにしてきた。さらにヒト癌発生におけるdrs遺伝子の関与の可能性を検討するためにdrs遺伝子のヒトホモログを分離した。ノーザンブロット法によりヒトdrs遺伝子のmRNAの発現をヒト正常組織で調べたところ心臓、大腸、小腸、前立腺、精巣、卵巣、などの組織で強い発現が認められるのに対し末梢血、胸腺、脳、肺、肝臓、筋肉などではほとんど発現は認められず高い組織特異性があることがわかった。そこでdrs遺伝子発現の高い結腸から由来した癌細胞株について検討したところ、調べたほとんどの大腸癌細胞株においてdrs mRNAの強い発現抑制が認められた。また、drs遺伝子をこれら大腸癌細胞株の一つであるLoVo細胞にレトロウィルスベクターを用いて導入したところ増殖抑制が認められることを見い出した。これらの結果はヒト癌の発生においてもdrs遺伝子が抑制遺伝子として機能している可能性を示している。
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