研究概要 |
私どもは、1980年より悪性腫瘍随伴性高カルシウム血症の原因因子である副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の腫瘍組織における発現と局在について多くの知見を集積してきた.それらの検討を通じて,乳ガン骨転移はPTHrPの発現と相関のあることを既に報告した.一方,骨転移の成立には,腫瘍細胞と骨気質,とくにRGDペプチドを有するオステオポンチン等との親和性を考慮する必要がある.骨髄微小環境において,腫瘍細胞の産生するPTHrPが破骨細胞を活性化して骨吸収を促進し,骨組織における腫瘍増殖の場を拡大することが予想された.私どもと,米国ワシントン大学Dr. Teitelbaumとの共同研究の結果,マウス骨髄マクロファージの分化に際し,細胞表面のαvβ3 integrinの発現量を規定するのは,β3 subunit であることを明らかにし,Journal of Biological Chenistryに発表した.αv subunitはβ1, β3, β5という複数のβ subunitとheterodimerを形成する一方,β3 subunitは,巨核球をのぞきαv subunitのみとheterodimerを形成する事実も,私どもの結果を支持するものである. また,これらの研究成果に基づき,骨転移を示す腫瘍細胞におけるαvβ3 integrinの発現,特にβ3 integrinの発現調節機序に注目し,乳癌外科手術材料を用いて,原発巣,臓器別転移巣におけるβ3 subunit発現を分子雑種法を用いて解析した.その結果,β3 subunit発現は,骨転移巣で高度に認められ,原発巣ではheterologousに陽性腫瘍細胞がみられた.骨転移の成立には,1)腫瘍由来のPTHrPをはじめとする破骨細胞活性化因子の放出,2)活性化された破骨細胞による骨気質の露出,3)腫瘍表面に発現するintegrinをはじめとする接着分子と骨気質との相互作用という機序の存在が推定された.この成果はClinical Orthopaedics and Related Researchに発表した.
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