C型肝炎ウイルス(HCV)感染症は高率にキャリア化することが知られているが、そのメカニズムは未だ明確にされていない。そこで本年度は、HCV遺伝子の変異と肝炎の進展の関係についてチンパンジー実験から解析した。方法は、HCV-F株の接種により感染が成立した6頭のチンパンジーから経時的に採取した血清を用いてnested RT-PCR法によりHVRを含むE1〜E2領域の遺伝子(399bp)を増幅した。得られたDNAをpBluescriptベクターを用いてクローニングし、少なくとも6クローンの遺伝子について塩基配列を決定した。その結果、計132個のアミノ酸における変異を比較したところ、急性発症で終わるものは、その変異は軽度であった。これに対し、慢性肝炎に移行するものは、感染早期から遺伝子変異を認めた。慢性期におけるアミノ酸変異は血清ALT値の変動を示す1例では比較的強い傾向を示したが、不顕性持続感染例では軽度であった。アミノ酸変異は特定の箇所に発生するのではなく各個体で異なっていた。また特にHVR内に変異が集中する傾向はみられず、その隣接部にも同等に観察された。このようなescape mutantの出現が、HCVの持続感染成立に深く関与していることが示唆された。
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