大腸癌の発生、進展には複数の遺伝子変化が起こっていることが明らかになってきているが、転移、浸潤に関与する遺伝子変化については現在のところまだ判っていない。既に我々は、転移性を示す進行大腸癌で8番染色体短腕の欠失を高頻度に認めている。また、正常8番染色体移入大腸癌細胞では癌形質の抑制と、浸潤能の低下が起こるが、移入細胞から8番染色体特定領域が脱落した細胞(リバータント細胞)では癌形質が再発現し、浸潤能も元の大腸癌細胞と同程度になったことからも、8番染色体上に大腸癌の進展に関与する癌抑制遺伝子の存在が示唆された。そこで、正常8番染色体特定領域を含む染色体DNAから制限酵素認識配列を含むプライマーを用いて、塩基配列情報未知の染色体DNAの全配列を増幅した。増幅したDNAを制限酵素で切断し、ブルースクリプトIIにクローニングしてDNAライブラリーを作製し、ラベルしたヒト全ゲノムDNAをプローブとしてライブラリーをスクリーニングして単一コピークローンを得た。さらに正常8番染色体移入大腸癌細胞とリバータント細胞のcDNAをプローブとしてハイブリダイゼイションを行い、正常8番染色体移入大腸癌細胞でのみ発現しているゲノムDNAを数クローンを得た。現在、得られたクローンをプローブとしてノーザン分析により正常8番染色体移入大腸癌細胞とリバータント細胞でmRNAの発現を確かめている。
|