ヒト胃癌の血行性転移過程を明らかにするために転移性、非転移性細胞株をヌードマウス皮下に移植し、血液中癌細胞および肺転移巣の経時的変化をサイトケラチン19(CK19)PCR、抗CK19抗体および抗Brdu抗体を用いた免疫染色により解析した。その結果、転移性のGLM-1、GLM-2株を移植したヌードマウスではCK19PCR法でいずれも血中癌細胞が陽性であり、免疫染色から癌細胞は血液中では大小の腫瘍塊として存在していることが明らかとなった。また肺では癌細胞は主として血管内で増殖して微小転移巣を形成することが明らかとなった。血管内での癌細胞の増殖はS期の指標であるBrduの取り込みから確認した。一方、非転移性細胞株のヌードマウス血液中癌細胞の陽性率は40%(2/5)で、陽性株(HSC-39およびHSC-43)は免疫染色の結果から主として単一細胞として存在している傾向が明らかとなった。以上の結果から転移性細胞は血液中に細胞塊として移行し、管内性に増殖して転移巣を形成するのに対して、非転移性細胞は血液中に移行できないか、移行できても転移先で定着あるいは増殖ができないものと考えられた。転移機構を分子レベルで明らかにするためには転移性細胞に特定の遺伝子を導入し、転移に及ぼす影響をin vivoの実験転移系で検証する必要がある。そのために転移性のGLM-1株の培養細胞株の樹立をexplant culture法を用いて試みている。株化中の細胞は浮遊細胞型であり現在、継代30代目を数えているが増殖は依然として遅くまだ株化には至っていない。また非転移性細胞が二次転移巣形成のどの過程で排除されるのかを明らかにするために非転移細胞株HSC-39にLacZ遺伝子の導入を試みている。現在、G418耐性細胞を多数分離し、そのうちX-gal活性の比較的高い細胞を数クローン分離したが、陽性細胞率が必ずしも高くないため現在さらに発現の強い細胞を継続して分離中である。これら遺伝子導入実験に関しては達成の目処はつきつつあるが今後なお一層の努力が必要である。
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