ライム病ボレリアはマダニと脊椎動物の間で宿主転換しなければ、その生活環を維持できない。宿主転換はマダニの吸血時に“マダニから脊椎動物へ"、“脊椎動物からマダニへ"というルートで行われる。本研究では、ふたつの宿主におけるボレリアの存在様式に着目し、病原体の移行経路を微細形態学的に追跡することを目的とした。齧歯類の皮膚ではボレリアの局在部位は真皮結合組織と推定され、マダニの吸血時にマダニ側へボレリアが移行するものと考えられた。しかし、皮膚でのボレリアはきわめて低密度であった。そこで、PCR法による皮膚からのボレリア鞭毛遺伝子検出を試みたところ、感染マウスの皮膚10mgあたり1000細胞以下と推定できた。次にマダニにおけるボレリアの存在様式を調べた。未吸血のマダニではボレリアは中腸ルーメン内に存在し、吸血と共に体腔側へ脱し、唾液腺経由で宿主にボレリアが注入されることが類推できた。また、マウスにボレリア感染を成立させるマダニの咬着時間を検討したところ、48時間以降にボレリアがマウスに注入されることが判明した。蛍光抗体法で唾液腺のボレリア数を推定したところ、咬着後48〜72時間にマダニ1匹あたり10細胞以下の微量な菌体が証明された。従って、ボレリアが宿主に注入さるまでにマダニ体内で準備期間が必要なことが類推できた。この準備期間には唾液腺へのボレリアの移行ばかりでなく、ボレリア自身の質的変化(休眠型から感染型ボレリアへの転換)も生じているかもしれず、この点を将来検討する予定である。
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