我々は細胞内寄生原虫であるトキソプラズマ原虫感染細胞がトキソプラズマ原虫抗原をT_3細胞に提示することを世界で始めて報告し、またT細胞エピトープのアミノ酸解析に成功した。さらに、我々はトキソプラズマ症に見られる網脈絡膜炎の発症機序には、他のブドウ膜炎、例えばヘルペスウイルス性ブドウ膜炎や自己免疫性ブドウ膜炎(サルコイドーシス、Vogt-Koyanagi-Harada病)との間に共通した発症機序が存在することを明らかにした。トキソプラズマ性網脈絡膜炎およびヘルペスウイルス性ブドウ膜炎や自己免疫性ブドウ膜炎には共にCD4+細胞傷害性T細胞およびこのT細胞が産生するγインターフェロンとIL-6が重要な役割を演じていることが明らかになり、このCD4+細胞傷害性T細胞は興味あることにメラノサイトによって誘導活性化されることが分かった。これらのCD4+細胞傷害性T細胞の認識する抗原はそれぞれ、トキソプラズマ原虫感染メラノサイト宿主細胞やヘルペスウイルス感染メラノサイト宿主細胞、あるいは自己メラノサイトがHLA-DR分子によって提示する抗原を認識していることが明らかになった。さらに、これらのCD4+細胞傷害性T細胞が産生するγインターフェロンやIL-6がメラノサイトの抗原提示能力を増幅し、抗原虫作用や抗ウイルス作用を増幅すると共に炎症における憎悪因子として機能することが明らかになった。また、トキソプラズマ症における炎症発症機序解明に必要な細胞・組織内トキソプラズマ原虫を定量的に同定する方法として、トキソプラズマ原虫特異的遺伝子SAG1遺伝子を標的遺伝子とした競合性定量性PCR法を確立した。この競合性定量性PCR法による解析によってトキソプラズマ原虫が神経系細胞・組織にトロピズムを示すことが明らかになった。以上本研究によって、トキソプラズマ性網脈絡膜炎の発症には、トキソプラズマ原虫側要因と宿主側要因が関与していることが明らかになった。
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