肝蛭のカテプシンLは不活性型酵素(前駆体)として生合成され、細胞内プロセッシングを受けた後、腸上皮細胞内の分泌顆粒に輸送される。しかしながら、本酵素の細胞内輸送機構、不活性型酵素から活性型酵素(成熟酵素、mCL)への変換の分子機構については不明な点が多い。そこで本研究では肝蛭虫体より分離精製が困難である肝蛭カテプシンL前駆体(プロカテプシンL、proCL)を大腸菌で発現させ、その性質やin vitroにおける活性化機構を検討した。proCLをコードするcDNAはproCLのN末端とC末端アミノ酸配列に対応したオリゴヌクレオチドプライマーを用いたcDNA-PCRによって増幅した。このcDNAをglutathione-S-transferase(GST)との融合タンパクとして発現させるpGEX-4T-1 plasmid vectorに挿入し、得られた組換えプラスミドを用いて大腸菌の形質転換体を得た。融合タンパクの発現は大腸菌培養液にIPTGを添加することによって行った。発現した融合タンパクは尿素で可溶化し、次いで還元型と酸化型グルタチオンを含むリン酸カリウム緩衝液中でrefoldingを行った。さらに融合タンパクよりGSTをthrombinで切断し、組換えproCLを得た。酵素活性測定は基質としてZ-Phe-Arg-MCAを用い、pH5.5、37℃で行い、遊離したMCAの460nmにおける蛍光を測定した。発現したGST-proCL融合タンパクは封入体として不溶性画分に回収され、SDS-PAGEにより求めた組換えproCLの分子量は38kDaであった。さらに、refolding後、thrombin消化したのち、組換えproCLのZ-Phe-Arg-MCAに対する分解活性を検討したところ、組換えproCLを酸性条件下(pH4-5.5)、37℃でincubationすると、時間経過とともに活性の上昇が認められた。このことは不活性型proCLから活性型mCLへのpH依存的な変換に起因していることが抗proCL抗体を用いたimmunoblotting法により明らかになった。生体内における活性化部位やその変換機構が自己触媒的(分子内)なのか、あるいは他の酵素の触媒作用(分子間)によるものなのかについては今後検討する必要がある。一方、同様な発現系を用いて調製したproCLのプロペプチド欠損組換えmCLはrefolding処理後、thrombin消化を行っても酵素活性は全く検出されなかった。このことはproCLのプロペプチドが酵素機能を有するカテプシンLのfoldingに必須なものであり、いわゆる分子内シャペロンのような機能を担っている可能性も考えられ今後の研究に興味がもたれた。
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