P-糖タンパク質は、ATP結合領域をもつ膜輸送タンパク質であり、リーシュマニアの薬剤耐性の分子機構において中心的役割を果たしていることが最近の研究によって明らかになってきている。これまで2つの異なるタイプのP-糖タンパク質遺伝子がリーシュマニアから単離されているが、今回、これらとは異なる新しいタイプのP-糖タンパク質遺伝子と考えられる遺伝子をクローニングし、その全塩基配列を決定した。まず、L. amazonensisのDNAを材料として、P-糖タンパク質遺伝子群に共通なATP結合領域をPCR法で増幅した。次いで、この断片をプローブとしてλGEM-11ゲノムライブラリーをスクリーニングし、得られた陽性ファージをサブクローニングしたのち、プライマーウォーキング法によってオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列を決定した。ORFは3801塩基対からなり、推定される1267のアミノ酸配列は、2つのATP結合領域をもつ膜貫通型のP-糖タンパク質遺伝子機構を示した。ヒトのP-糖タンパク質遺伝子MDR1(1280残基)とのアミノ酸ホモロジーは39%であり、リーシュマニアの既知のP-糖タンパク質遺伝子であるldmdr1(1341残基)およびltpgpA(1548残基)とのホモロジーは47%および29%であった。また、サザンハイブリダイゼイションによる解析の結果、この遺伝子は単一遺伝子であるものと考えられた。以上の結果から、今回クローニングした遺伝子は、リーシュマニアの新しいタイプのP-糖タンパク質遺伝子である可能性が強く示唆された。現在、本遺伝子を発現ベクターに組み込み、リーシュマニア細胞内で発現させることにより、その機能を明らかにする実験を進めている。
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