化膿連鎖球菌(A群連鎖球菌、Streptococcus pyogenes)は菌体表層に発現するM蛋白により皮膚・表皮細胞上のmembrane cofactor protein (MCPあるいはCD46)に特異的に結合する。本研究では、M蛋白とMCPの相互作用に必要な最小領域を同定すること、さらにMCPを発現するトランスジェニックマウスを作製し、化膿連鎖球菌による個体レベルでの実験感染モデルを確立することを目的とした。MCPは、N末端側にshort consensus repeat(SCR)と呼ばれる約60アミノ酸からなる4つのくり返し配列をもつ膜蛋白で、MCPの生理学的活性部位はこの4つのSCR上にあることがわかっている。M蛋白との結合部位もこれまでの知見からSCR上に存在すると考えられている。今回、クローン化されたMCPcDNA(クローンK5-23)から異なるSCR数を含む8つの部分断片を大腸菌内で発現させ、これを精製した。一方、化膿連鎖球菌は表皮細胞由来の培養細胞(HaCat細胞)に対してM蛋白とMCPの相互作用により結合することがわかっている。この培養細胞を用いて、MCP精製部分蛋白による菌の細胞への結合阻害をELISA法により調べた結果、すくなくとも細胞表面に露出するMCP分子のSCR2からSCR4までの領域が菌との結合に必要であることが明らかになった。さらに、クローン化されたMCPcDNAを用いて、MCP発現トランスジェニックマウスの作製を試みた。近交系マウスC3H/HeNを親株とするMCP発現トランスジェニックマウス10匹を得、このMCP発現トランスジェニックマウスを用いて化膿連鎖球菌の感染の有無および感染経路のちがいによる病態の変化などを個体レベルで検討することが可能となった。
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