緑膿菌の鉄レギュロン構成員であるシデロフォア(ピオベルジン)合成(pvd)遺伝子群の転写は、正の制御因子PvdSを必要とするとともに、鉄レギュロン全体の転写を高鉄濃度条件で抑制するレプレッサーであるFurにより抑制される。本研究では、pvd遺伝子群発現に対するFurとPvdSの両制御因子の作用機序と、他の病原性因子発現へのPvdSの関与の検討を行った。 1.転写にPvdSを必要とする3種のpvd構造遺伝子群プロモーター領域の塩基配列を決定した。Furにより転写抑制される遺伝子群上流に共通して存在する塩基配列(Fur box)と高い相同性を示す塩基配列はいずれのプロモーター領域にも存在しなかった。また、Fur titration assayにおいても、Furが結合できる塩基配列を検出できなかった。 2.pvdSプロモーター領域にFurが結合できる塩基配列の存在をFur titration assayで検出した。さらに、染色体上のpvdS遺伝子にプロモーター欠損xylE遺伝子をオペロン融合させた変異誘導体株でのXylE活性の鉄濃度応答性を検討したところ、pvdSの転写は高鉄濃度条件で抑制され、低鉄濃度条件で脱抑制されることが判明した。1と2の成果より、高鉄濃度条件でのpvd構造遺伝子群の転写抑制はFurがpvdSの転写を直接的に抑制することに起因し、Furが複数のpvd構造遺伝子群の発現を直接的に負に制御する可能性は極めて低いと結論された。 3.pvdS突然変異株のアルカリプロテアーゼ産生量は、低鉄濃度条件下では野性型株の1/4に減少していた。また、高鉄濃度条件下では野性型株と同様に本プロテアーゼの産生は認められなかった。このことより、PvdSはシデロフォアのみならず、高鉄濃度条件で産生が抑制されるアルカリプロテアーゼの産生にも正の制御因子として働くことが明らかになった。
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