緑膿菌の主要シデロフォアであるピオベルジンの合成に関与するpvd遺伝子群の多くは、染色体地図47minの103kbのpvd領域に存在するが、本領域にはpvd構造遺伝子群の転写に必要な正の制御因子の遺伝子pvdS、及び、鉄-ピオベルジン複合体の細胞内取込みに関与する外膜受容体蛋白質の遺伝子FpvAも含まれる。本年度は、pvd領域の種々の特異的欠失突然変異体を分離・解析し、本領域並びにfpvAの機能を検討した。 1.トランスポゾンTn1722のもつ部位特異的解離系を利用して、染色体に巨大欠失突然変異を効率的に誘発する分子遺伝学的系を構築した。本系は、(1)欠失末端が正確に予測でき、(2)突然変異体作成時に用いた耐性マーカー遺伝子を除去でき、(3)広範な細菌種に適用可能で、実際、緑膿菌の他の遺伝子群の特異的欠失に適用できる特色を有していた。 2.pvd領域を含む110kbの染色体に特異的な欠失をもつ突然変異体はコハク酸最少培地でも野性型株と同様の生育様式を示した。このことから、pvd領域が、細胞の生育に必須の遺伝子並びにアミノ酸・ビタミン・核酸塩基前駆体の生合成に必要な遺伝子を担っていないことが明らかになった。 3.分離した各種の特異的欠失突然変異体の中でもfpvAを保持する株としない株の鉄-ピオベルジン複合体取込み能を比較した。この結果、鉄-ピオベルジン複合体の細胞内取込みに関与する外膜受容体蛋白質はFpvAのみで、従来指摘されていた他の低親和性受容体蛋白質の存在の可能性は低いことが強く示唆された。
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