緑膿菌で鉄獲得に関わるシデロフォア(ピオベルジン)の合成(pvd)遺伝子群の多くは103kbのpvd領域に存在する。本遺伝子群の転写は、正の制御因子PvdSを必要し、また、鉄レギュロン全体の転写のレプレッサーFurにより高鉄濃度条件で制御される。本研究では、pvd遺伝子群発現へのFurとPvdSの両因子の作用機序、他の病原性因子発現へのPvdSの関与、pvd領域の機能の検討を行った。 1.転写にPvdSが必要な3種のpvd構造遺伝子群プロモーター領域には、Furが結合して転写抑制するのに必要な共通塩基配列(Fur box)が存在しないことが、Furtitration assayと塩基配列の決定より明らかになった。一方、pvdSプロモーター領域にFur boxが存在し、また、pvdSの転写は高鉄濃度条件で抑制、低鉄濃度条件で脱抑制された。これらの成果より、高鉄濃度条件でのpvd構造遺伝子群の転写抑制はpvdSの転写に対するFurの直接的抑制に起因することが強く示唆された。 2.pvdS突然変異株のアルカリプロテアーゼ産生は、鉄濃度条件下では野生型株と同様認められなかったが、低鉄濃度条件下では野生型株の1/4に減少しており、PvdSは本プロテアーゼの産生にも正の制御因子として働くことが判明した。 3.Tn1722のもつ部位特異的解離系を利用して、pvd領域の欠失突然変異体を多数分離した。本領域を含む110kbの染色体に特異的欠失をもつ突然変異体の生育は最少培地でも野生型株と同様で、本領域は細胞の生育に必須の遺伝子並びに栄養要求性遺伝子を担っていないことを明らかにした。 4.各種の特異的欠失突然変異体の中でもpvd領域内のfpvAを保持する株としない株の鉄-ピオベルジン複合体取込み能を比較した。この結果、本複合体の細胞内取込みに関与する外膜受容体蛋白質はFpvAのみで、他の低親和性受容体蛋白質存在の可能性は低いことが示唆された。
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