研究概要 |
Borrelia burgdorferiを約1年間にわたり試験管内で継代培養することで,マウスに対する感染性,マウス足蹠の腫脹誘導能の喪失した非病原株の作製に成功した.継代株では主要表層蛋白質outer surface protein C (OspC)の減少,あるいは消失が見られたことから,OspCの発現がライム病ボレリア感染,あるいは病原性発現に関与する可能性を示唆した.ハムスター卵母細胞CHO-K1に対する接着能は病原性原株に比べ,継代非病原株では著しく低下していた.これまで細胞接着に関与すると見られたOspAの発現量はこれら継代株ではむしろ増加していることから,OspA以外の接着因子が存在する可能性を示唆した. 神経細胞に広く存在するガングリオシドを初めとする糖脂質とボレリアとの接着性について薄層クロマトグラム上での結合試験により調べた.試験したスフィンゴ糖脂質のうち,ガラクトシルセラミド(GalCer),及びグルコシルセラミドに強い結合活性を見いだした.また,継代非病原株の接着性は有意に低下していた.GalCerのガラクトースの3位に硫酸基を保有するスルファチドでは,むしろ活性は低下した.GalCerをリガンドとするアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより,ライム病ボレリアから接着因子の分離を試みた.当初の予想に反してOspCは接着因子としては機能せず,41kilodalton (kDa)鞭毛蛋白質,61kDa熱ショック蛋白質,67kDa未知の蛋白質とGalCerが結合することが明らかになった.現在GalCer接着因子の精製を進めている.病原株,並びに継代株のOspC転写調節領域のシークエンス解析を行ったが,OspC上流の転写調節領域,すなわちリボゾーム結合部位,プロモーター領域に継代前後で変異は見られず,何らかの転写調節機構が存在することを示唆した.
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