研究概要 |
Helicobacter pyloriの種々の病原因子のうち,付着因子,空胞化毒素(vacuolating toxin:VT),サイトカイン(特にインターロイキン8(IL-8),熱ショック蛋白(heat shock protein:HSP)および活性酸素に注目し,これらの因子の性状を解析することによりH.pylori感染による胃粘膜障害発現機構の解明を行った。 フローサイトメーター(FCM)による付着性の解析の結果,H.pyloriは胃由来上皮細胞株と強い親和性をもつことが明らかにされた。また,本菌はモルモット,ウサギ,ヒト,ヒツジ,ニワトリ,ウマ,ウシの赤血球を凝集する活性を有すると共に,これらの活性が菌の細胞への付着性と関連することも明らかにされた。 H.pyloriの約半数の菌株はVTを産生する。VT産生性菌株培養上清は,モルモット胃より調整した壁細胞の胃酸分泌能を抑制したが,VT非産生性菌株培養上清はこのような効果をもたなかった。細胞内シグナル伝達のセカンドメッセンジャーの解析より,VTは直接プロトンポンプを抑制していることが考えられた。 H.pyloriは胃上皮細胞および好中球と接触することにより,IL-8および活性酸素を生成させることが明らかにされた。またこれらの効果は菌株培養上清のみでは引き起こされなかった。 HSP60(分子量6万)はH.pylori菌体内には被験全菌株に同程度検出されたが,菌体表面での発現は菌株間により異なっていた。また,この発現率は菌株の胃上皮細胞への付着性と相関していた。胃上皮細胞表面に本菌HSP60と交叉反応性を示すエピトープの存在が確認され,HSP60が慢性炎症および粘膜障害のトリガーとなる可能性が示された。 以上,付着因子,VT,サイトカイン,活性酸素,HSP60等のいずれも胃粘膜障害に関与するものと考えられ,障害機構は現在のところmultifactorialであると想定される。
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