研究概要 |
細菌が感染を起こすと細胞内に巨大な骨格蛋白アクチンの重合物が出現することがある。Listeria monocytogenesや赤痢菌(Shigella flexneri)の場合には、アクチン重合物はアクチン製モーター(アクチンテ-ル)であって、細胞内の細菌はこの機能構造を使って細胞膜を突き破り、隣接細胞へと拡散していく。一方、腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli, EPEC)の場合には、細菌が粘着した細胞膜にアクチンの重合物が出現するが、その感染段階での役割はまだ十分に理解されていない。本研究では、EPEC、赤痢菌(S. dysenteriae 1、S. flexneri 2a、S. sonnei I)、赤痢様下痢を引き起こす腸管侵襲性大腸菌(enteroinvasive E. coli, EIEC)、そして新型のClustered adherenceを示す下痢症大腸菌D2株によるアクチン重合を共焦点レーザー顕微鏡を使って解析し、各々の構造上の特徴を細菌感染の立場から比較検討した。出現したアクチンフィラメント(F-アクチン)はFITC標識phalloidinで染色、これを共焦点レーザー顕微鏡で解析した。なお、菌体は特異抗体で処理した後にTexas・Redで標識した。報告されているS. flexneriの場合と同様で、S. dysenteriae、S. sonneiそしてEIECの場合にも、典型的な巨大なアクチンテ-ル形成が感染した細胞内の接着部(ストレスファイバー)付近で観察された。さらに本研究で、赤痢菌に関して、細胞表層での新しい感染像をみいだした。一方、EPEC感染の場合には、F-アクチンが細菌を取り囲むようにして現れ、しかも細胞膜の内部に局在していた。EPECは、また、細胞の微絨毛を伸長させ、膜に包まれるような感染像も与えた。EPECの感染様式は“膜内感染intramembranous invasion"と呼べるもので、アクチン重合物はアクチンカプセルと考えられた。EPECは、宿主の蛋白アクチンで被われ、細胞膜内に埋没することで、宿主の局所免疫から逃避し、腸管粘膜での持続感染(>2W)を可能にしていると思われる。D2株でも同様の結果を得た。Helicobacter pyloriによる感染像は臨床の先生方の協力を得て、biopsyを用いて解析中である。
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