本研究は、インフルエンザウイルスの受容体認識特異性とウイルスの感染増殖に宿主のシアル酸分子種の違いがどのように関与しているのか、さらにシアル酸分子種の認識にヘマグルチニン分子のどの領域が重要であるのかを調べることによりインフルエンザウイルスの異種動物間での伝播機構を解明することを目的とする。ヒト、ブタ、ウマおよび鳥類から分離されたA型インフルエンザウイルス(H3N2)のシアロ糖鎖結合特異性をTLC/Virus binding assayにより調べた。さらにインフルエンザウイルスが感染増殖する宿主の気管の粘膜細胞組織あるいは大腸の上皮細胞組織のシアル酸分子種を高速液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、1)ヒトA型のインフルエンザウイルスは、Neu5Acを含有するガングリオシドのみに結合性を示し、Neu5Gcを含有するガングリオシドに結合性をほとんど示さないこと、2)ブタA型インフルエンザウイルスの一部とウマおよびトリA型インフルエンザウイルスは、Neu5Gcを含有するガングリオシドにも高い結合特異性を有することを見い出した。さらに、3)ヒト気管には主要シアル酸分子種としてNeu5Acのみが検出されること、4)ブタ気管にはNeu5AcとNeu5Gcがほぼ等モル存在すること、5)ウマ気管の主要シアル酸分子種Neu5Gcであることをはじめて明らかにすることができた。今後は、シアル酸分子種の認識に関与していると思われるヘマグルチニンのアミノ酸領域を各A型インフルエンザウイルスのアミノ酸配列の比較をもとに明らかにする計画である。
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