骨髄移植などの臓器移植医療では潜在ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の再活性化、つまりHCMV感染症が大きな問題となっている。これを予防する目的で、免疫グロブリン製剤が使用されるがその効果は万全とは言えない。そこでより有効な免疫グロブリン製剤を作製する目的で、抗HCMV中和抗体価が高いヒトのB細胞から抗体遺伝子をクローニングし、ヒトモノクローナル抗体を作製する技術に取り組み、いくつかの点で進歩があった。 (1)末梢血B細胞よりmRNAを抽出し、RT-PCRで抗体のL鎖およびH鎖を増幅し、pRPLS/Fablベクターにクローニングして、大腸菌に導入した。この実験の過程で、H鎖は大腸菌に毒性を示すことが判明した。そこで、H鎖に耐性を示す株の発見につとめ、DH21株が目的にかなうものであることを見出した。その後発現実験を行い、SDS-PAGEやWestern Blotで解析した結果、両鎖ともに発現していることが確認できた。 (2)HCMVを構成する蛋白質のうち、中和エピトープを持つ蛋白質は3種知られている。そのうちgB蛋白質に対する抗体(抗gB抗体)が最も強力な中和活性を示す。抗gB抗体を特異的に分離する為には、gB抗原の調整が必用である。抗原の調整はいくつかの方法があるが、ここでは組み換えgB蛋白質の調整をめざした。gB蛋白質は分子内に2ヶ所の中和エピトープを持つため、これらの領域をPCRで切り出し、発現ベクターにクローニングした。発現ベクターは4種を試用したが、MBPと融合して発現させる方式のpMALベクターが最も有効であり、2つのエピトープ部分とも発現することに成功した。両エピトープは精製し、パニングに使用する体制は整った。 (3)上記の過程を経て、ヒトモノクローナル抗体のライブラリーを作製し、抗HCMV中和抗体をスクリーニングした結果、中和活性を持ついくつかのクローンが分離できた。今後は、より高いKd値をもつクローンの分離をめざす。
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