インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼはPB2、PB1、PAという3つのサブユニット構造をとり、ウイルスゲノムの転写及び複製を行う。当研究者は、組み換えバキュロウイルス等の大量発現系により単独、あるいは、あらゆる組み合わせにより発現したそれぞれのサブユニットを用いて、ウイルスゲノムの第8分節の両端を持ったモデル鋳型に依存した試験管内転写・複製系を構築した。そして、PB1サブユニット単独でも、モデル鋳型依存性にRNA合成活性を発現するとともに、モデル鋳型の複製には、PB2、PB1、PAの3つのサブユニットがすべて必要であることを示した。また、PB2、PB1、PAとNPあるいは、PB1、PAとNPを発現する培養細胞にゲノムの第8分節の両端の間にCAT遺伝子を挿入したモデル鋳型を導入する系を用いて、PB2がキャップを利用したプライミングを行う「プライマーゼ」の活性を持つことを示した。これにより、インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼはPB1はRNA合成、PB2はキャッププライマーゼ、PAは複製の機能を持つことを提唱した。さらに、それらは、PB1単独でRNA合成、PB1+PB2による転写、3つのサブユニットによる転写・複製というようにサブユニットの相互作用により機能が変換することが考えられる。 次に各サブユニットの相互作用の機構とその部位が問題となるが、まず、各サブユニットの結合部位を同定した。各サブユニットのN末端あるいはC末端からの150アミノ酸ごとの一連の欠損変異体を作製し、野生体のサブユニットと共にCOS細胞に導入し、各サブユニットに対する特異抗体で、免疫共沈殿を行った。そして、PB1PB2の結合部位は、PB1のC末158アミノ酸とPB2のN末249アミノ酸、PB1PAの結合部位は、PB1のN末140アミノ酸とPAのC末3分の2であることを決定した。
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