T細胞エピトープの認識の特異性はMHCへの結合、TCRによるMHC-ペプチド複合体の認識という2段階に決まるため、1年目は前者の解析に費やした。8アミノ酸長、9アミノ酸長のペプチドライブラリーを合成し、MHCのペプチド結合部位のアミノ酸選択度を半定量化した。ライブラリーの基本デザインは各々アミノ酸位をひとつのアミノ酸で固定し、その他の部分には19アミノ酸が等モルに代表された混合物(Xと表記する。例えばXXXGXXXX)を用いることにより、近傍のアミノ酸による効果を平均化させたものである。このライブラリーの結合度をすべての位置をランダム化させたXXXXXXXXと比較することにより固定したアミノ酸のMHCへの結合、構造の安定化に対する貢献度を単離した。貢献度はMHC-ペプチド複合体の熱安定性を50%達成させるペプチドの濃度を表した。この値はMHC-ペプチドの会合に要するGibb'sの自由エネルギーに相関すると考えられる。8アミノ酸長のデータは論文に発表した。次に各アミノ酸の貢献度を加算的に扱い、任意のペプチド配列につき、結合度を予想させるプログラムを作成し、データベースに登録されたタンパク質中に存在するペプチドのMHC安定化能を予想させた。この方法ではなぜか主要アンカー位の評価がやや低く見積もられる傾向があるが、既知の主要アンカーの情報と組み合わせると、平均300アミノ酸長程度のタンパク質において自然は抗原プロセシングを経てMHCの結合していることが知られているペプチドのほとんどは結合能の高い上位5位に含まれていた。このことは、MHC-の構造の安定化にペプチドのアミノ酸側鎖から供給される結合エネルギーがある程度独立して貢献することを示している。一方、非加算的要素も含まれることを示すデータも得られた。
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