motheaten(me)マウスは血液細胞系譜特異的に発現するSH2ドメインを持つ脱リン酸化酵素(Hematopoietic cell phosphatase:Hcph)遺伝子の変異で多くの血液細胞系譜で異常が観察されているが、主なものはマクロファージの異常増殖とCD5陽性B細胞による自己免疫疾患である。meマウスの骨髄、脾臓、胸腺、リンパ節の培養は3日以内にストロマ細胞が存在してもほとんどマクロファージにより占められ、他の血液細胞の増殖は全く見られなかった。そこでストロマ細胞にPA6を用い、IL-7とAFS98(抗c-Fms抗体)を添加したところマクロファージの異常増殖を阻害することができB細胞系譜の細胞を誘導し増殖させることができた。このB220弱陽性の細胞は大型の細胞でIgMやCD5陽性B細胞のマーカーであるMac1も発現していない未熟なB前駆細胞であった。また骨髄細胞をIL-3とAFS98で培養することでマスト細胞株も作製できた。このことからmeマウスにみられるマクロファージの増殖もc-Fmsからの刺激によることが明らかとなりmeマウスの細胞株を樹立するにはAFS98を添加すればよいことが明らかとなった。しかし予想に反してB細胞もマスト細胞も正常マウスからのものよりむしろ増殖が低下していた。meマウス由来のマスト細胞は正常と同様にc-Kitを発現していたので、IL-3の代わりにSCFを添加してみたがやはり増殖は低下していた。さらにB細胞、マスト細胞ともアポトーシスにより死滅する細胞が多く、Hcphの標的分子の脱リン酸化が行われないことによりすべての血液細胞系譜の増殖が増強されるのではなくmeマウスで見られるようにマクロファージ、単球系においてはc-Fmsからの刺激が増強されるが、B細胞やマスト細胞のIL-3受容体、c-Kitからのシグナルにはむしろリン酸化の延長は増殖、維持にとってマイナスに働くことが明らかになった。当初の目的の細胞株作製の実験系は樹立できたので、今後、この培養系を用いて各血液細胞系譜の細胞株を樹立しHcphの機能を検討する。meマウスの血液幹細胞よりB前駆細胞を誘導できるのでCD5B細胞の分化についても検討する。培養系における結果は生体内への抗c-Fms抗体の投与により症状が改善する可能性を示している。
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