研究概要 |
HTLV-1関連脊髄症の発症のメカニズムとして、多発性硬化症やEAEと同じ様な自己免疫機序が関与している可能性をさらに立証するため次の様な研究を行った。 (1)多発性硬化症(MS)、HAM/TSP患者の末梢血Tリンパ球のTCR Vβ鎖を解析した。EAEを惹起するミエリン塩基性蛋白(MBP)やプロテオリピッド蛋白(PLP)に反応するT細胞クローンで認められたVb鎖CDR3領域の特徴的なアミノ酸配列であるCSAALXG(アミノ酸-文字)配列が、MS, HAM/TSP両方の患者の末梢血に高頻度に認められた。MS, HAM/TSPの病因として、共通のTCR Vb鎖CDR3領域をもつ自己反応性T細胞による脱髄の機序が考えられた。現在さらに、MBP, PLPペプチドに対する反応性を調べている。 (2)HAM/TSP患者の末梢血Tリンパ球のうちHTLV-I感染細胞は5%以下で、ウイルス蛋白は、殆ど発現していない。HAM/TSP患者由来のリンパ球をin vitroで培養すると、接着分子のICAM-Iが強く細胞表面上に発現してくる。この培養液中に抗ICAM-I抗体を加えると、HTLV-I感染細胞にそれまで発現のなかったHTLV-I, gag蛋白の発現が認められた。このことは、末梢血中の活性化リンパ球や中枢神経組織内のミクログリアに発現しているLFA-Iなどの刺激によりICAM-Iが活性化され、HTLV-I感染Tリンパ球にHTLV-I蛋白が誘導発現されることを示している。以上より、ICAM-Iを介した細胞内シグナル伝達によりHTLV-I蛋白が発現誘導されることは、中枢神経系内でHTLV-I感染T細胞が機能的変化を起こし、さらには自己反応性のTリンパ球を活性化する新しい機序の可能性が示唆された。
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