研究概要 |
此の研究は,我が国の外来感染症の発生の現状を調べる疫学調査,及びその調査結果等を利用する数学モデルによる外来感染症に対する流行予防効果評価研究からなる。 1.外来感染症の疫学研究:全国の463ヵ所の伝染病棟の管理部門に対し,1993及び1994年の2年間に入院治療を受けた患者に関する疫学調査を実施した。調査は郵送自記式質問票調査であり,調査項目は,患者の性,年齢,診断名,推定感染地,推定感染源などである。調査期間は1995年12月〜1996年1月であった。有効回答数は237件であり,回収率は54.5%であった。結果は以下のとおりであった。1993及び1994年に入院治療を受けた患者は1095人であり,内訳は男640人女455人であった。男女とも20歳代が最多であり,次いで30,40歳代の順であった。診断名は,男では赤痢,コレラ,腸チフスが多く(90%),女では赤痢,腸チフス,コレラが多かった(93%)。推定感染地は,海外ではインドネシア,インド,タイが多く,国内での感染とした症例は23%であった。 2.数学モデルによる外来感染症予防対策効果の評価研究:海外からの外来感染症として現在わが国で問題となっているHIV/AIDSを取り上げた。数学モデルでは,地域住民が性的活動の異なる4つの集団,性的活動が活発な男と女,性的活動が中庸な男と女からなると仮定した。この集団に,海外から来るコマーシャル・セックス・ワーカー(CSW)によりHIVが地域の男に伝播し,異性間の性的接触を介してHIV/AIDSが地域住民の間で流行すると仮定した。予防対策としては,a)海外でCSWと性的関係を持つ男の間でのコンドームの普及,b)地域内のCSWの間でのコンドームの普及,c)地域内の男の間でのコンドームの普及,d)海外から来るCSWの減少である。結果は以下のとおりであった。最も効果のあった対策は,地域内のCSWの間でコンドームを普及させる対策であった。この対策を実施することにより,HIV/AIDS流行を無対策に比べ1/10以下に抑えることも可能であると示唆された。
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