研究概要 |
精神の健康度の医療経済に与える影響を明らかにするために、H県に所在し自動車のシートを生産しているD工業の全従業員1,531名を対象とし、精神の健康度と既往歴を平成7年2月に調査した。精神の健康度の尺度としてはGoldbergによって開発されたGHQ60を用いた。既往歴は、胃・十二指腸潰瘍、肝臓病、気管支炎・肺気腫・気管支喘息、糖尿病、狭心症・心筋梗塞、高血圧症、悪性腫瘍、脳血管障害、腰痛症、関節炎、外傷、頚肩腕症候群、貧血、不眠、不安について、最近一年間の医療機関受診について質問した。また、医療機関利用の定量的な指標としては、平成6年3月から平成7年2月までの健康保険組合のレセプトから、外来受診数、外来日数、外来医療費、入院受診数、入院日数を転記した。精神の健康度の評価としてはGHQ60で17点以上を問題あり、16点以下を問題なしとした。二つの群で、一年間の既往歴の頻度および外来受診数、外来日数、外来医療費、入院受診数、入院日数、入院医療費を比較した。さらに、性、年齢が交絡要因となる可能性があるので、医療機関利用の定量的な指標を目的変数として、GHQ60、性、年齢を説明変数とする重回帰分析を実施した。分析に当たって、GHQ60では、問題なしを1、問題ありを2、性では男性を1、女性を2、年齢では30歳末満を1、30歳代を2、40歳代を3、50歳代を4とするダミ-変数を用いた。 回答者数は15ll名(回答率98.7%)であり、そのうちGHQ60のすべての設問に答え1,388名(91.92%)を分析対象とした。GHQ60で17点以上あった問題あり群は520名、16点以下の問題なし群は868名であった。既往歴の累積罹患率で両群間に差(有意水準5%)の認められた疾患は、肝臓病、悪性腫瘍、外傷、不眠、不安であった。外傷、不眠、不安は、問題あり群のほうに多かったが、肝臓病、悪性腫瘍は、問題なし群の方に多かった。また、外来受診数、外来日数、外来医療費、入院受診数、入院日数、入院医療費のいずれもt-test(有意水準5%)で両群間に差は認められなかった。また、性、年齢を考慮した重回帰分析でも、GHQ60と医療機関利用の定量的な指標との関連は認められなかった。
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