研究概要 |
和歌山県の1959-1971年と1985-1994年の平均年間死亡率の推移を検討した。i)過去13年間の平均年間死亡率(年齢補正)は1.04人/10万人、最近10年間は0.98と差はなかった。ii)地域別には、紀伊半島南部ほど死亡率が高い傾向は消失し、全体として死亡率の増加傾向をみたが、多発地古座川を含む東牟婁地域のみ著名な低下を示した。iii)平均死亡年齢は、過去59.4歳に対し、最近は67歳と高齢化していた。 環境要因分析として、和歌山県、特に牟婁地方を中心とする17市町村の88ヶ所から採取した河川・飲料水中のCa,Mg含有量を原子吸光法で測定し、県北部5市町村と南部(牟婁地方)8市町村のCa,Mg含有量と発病率を対比した。北部:Ca15.8(7.2-19.9mg/l、Mg5.56(3.9-7.3)mg/lに対し、南部:Ca4.22(2.5-7.0)mg/l、Mg2.53(1.1-4.1)mg/lで、平均発病率は北部0.66人/10万人に対し、南部3.65人/10万人であった。しかし、河川・飲料水中Ca,Mg含有量と1989-1993年の5年間の発病率とは、過去の死亡率に見られた有意な相関を示さなかった。また、多発地の古座川町がCa2.5(1.25-5.57)mg/l、Mg1.25(0.56-3.0)mg/lと県下最低値を示したのに対し、対照地区大島の井戸水はCa9.2(2.9-36.0)mg/l、Mg5.40(2.5-7.4)mg/lと高値を示した。しかし、大島へは昭和48年以降上水道が古座川より海底を通じて供給されている。過去30年にわたる観察では、ALS患者の発症を未だ見ないが、大島住民は、既に約20年古座川の水を飲用しており、長期のCa,Mg欠乏はALS発症の一つのrisk factorと考えられることから、今後発症年齢に達した住民の長期観察が必要と思われる。
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