研究概要 |
平成8年度は、平成7年度に引き続き、これまで明らかにされていなかったハロン代替消火剤物質である1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(CF_3CHFCH_3、商品名FM-200、以下HFP)熱分解産物の毒性や、吸入時の救急治療方針についての検討を行った.実験結果より、熱分解産物の半数致死濃度はフッ化水素とほぼ同等の463ppmであることや、病理学的検査において主に上気道において炎症を示すことがわかった.上気道における炎症所見は熱分解ガスによる非常に強い刺激を示しており、所見が下気道に影響がおよんでいないのは、熱分解ガスの水溶性が高く上気道粘膜でガスが吸収されてしまい下気道に到達しないためであると考えられた.しかし、マウスやラットの鼻腔の構造とヒトとの構造の差、および吸入空気流量の差から、ヒトではマウスやラットより高濃度のガスが下気道に到達することが考えられ、急性影響出現時には刺激性肺炎や肺水腫の発生を予期して呼吸管理を実施する必要があると考えられる.また、主にフッ化水素からなる熱分解ガスが、低カルシウム血症を引き起こすことが明らかとなり、熱分解ガス吸入による急性健康障害が発生した場合には、血清電解質、心筋・骨格筋状態のモニタリングし、グルコン酸カルシウムの注入等による電解質アンバランスの是正を行う必要がある. ハロン代替消火剤熱分解産物の生体影響を調べる実験はまだHFPで実施したのみであり、今後、HFC-23(CHF_3)等、他の消火剤についても同様に実験を実施し、ハロン代替消火剤熱分解産物の吸入毒性についての知見を深める予定である.
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