トルエンから馬尿酸への代謝の一部にはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が関与しているが、そのisozymeの1つであるlow Km ALDH (ALDH2)には点変異により酵素活性が欠損しているalleleが存在することが知られている。そこで、ALDH2の遺伝子型をACRS法により、正常遺伝子のホモ接合(NN)型、不活性遺伝子のホモ接合(DD)型、およびそれらのヘテロ接合(ND)型の3型に分類し、トルエン曝露に伴う馬尿酸の尿中排泄とALDH2遺伝子多型との関係について実際の産業現場において検討した。 まず、45名のトルエン取り扱い作業者を対象に、個人曝露量と作業終了時の尿中馬尿酸濃度との間の回帰式をALDH2の遺伝子型ごとに求めた。DD型ではNN型、ND型に比べ、回帰式の傾きが有意に低くなっていた。回帰式からBEI (Biological exposure indeces)を求めると、NN型では2.9g/g Creat.、ND型では3.3g/g Creat、DD型では1.9g/g Creatであった。 次に、トルエン取り扱い作業者253名を対象として、過去の健康診断時の尿中馬尿酸濃度の分布をALDH2遺伝子型により分けた。男性では、NN型とND型の作業者の尿では3.0g/l以上の馬尿酸濃度を示すものがそれぞれ約6%認められたが、DD型ではすべての尿が3.0g/l以下であった。また、女性でも同様の結果が得られた。 以上、2つの結果はともにトルエンから馬尿酸への代謝がDD型では低下していることを示し、尿中馬尿酸濃度が同じでもDD型の人のトルエン曝露量はNN型とND型の人と比べて高いことを意味している。
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