トルエン取り扱い者92名を対象に、(a)個人曝露濃度の測定(パーソナルバッジを用いる)、(b)尿中馬尿酸濃度の測定(作業終了時の尿)、(c)遺伝子型の判定 チトクロム P-450(CYP1A1、CYP2E1) アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)、(d)喫煙、飲酒習慣の調査(質問表を用いる)を行い、トルエン曝露と尿中馬尿酸濃度との量・反応関係が遺伝子多型および生活習慣によりどのような影響をうけるかについて重回帰分析を用いて検討し、以下のような結果を得た。トルエンから馬尿酸への代謝はALDH2の遺伝子型により影響をうけた。不活性型ALDH2のホモ接合体の人では正常型ALDH2のホモ接合体の人に比べて、トルエン曝露による馬尿酸の尿中排泄が有意に低かった。ヘテロ接合体の人では両者の中間の値を示した。CYP1A1の多型(Exon7の点変異により、正常ではIleをコードしているコドンが変異型ではValをコードしている)はクレアチニン補正後にのみ有意な差を認めた。しかし、CYP2E1の多型(5'-flanking regionの点変異で転写に影響があるといわれている)はトルエン代謝に影響を及ぼさなかった。飲酒習慣のある人では尿中への馬尿酸排泄が抑えられることがわかった。この結果は、アルコールに強い正常型ALDH2のホモ接合体の人で馬尿酸産生が高い結果と矛盾しそうであるが、ALDH2いずれの遺伝子型においても、飲酒習慣による馬尿酸排泄の抑制は認められることから、ALDH2多型と飲酒習慣のトルエン代謝に及ぼす影響は独立したものであると考えた。また、喫煙習慣は尿中への馬尿酸排泄を抑える傾向を示した。
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