薬物代謝酵素の遺伝子多型による環境有害物質の代謝・排泄の個体差に関する研究

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07670416
• 研究機関: 産業医科大学
• 研究代表者: 川本 俊弘 産業医科大学, 医学部, 教授 (60177748)
• キーワード: 遺伝子多型 / アルデヒド脱水素酵素 / チトクロムP-450 / ニコチン / トルエン / 生物学的モニタリング / 代謝 / 多環芳香族炭化水素

研究概要

ピレン、ニコチンおよびカフェインの体内動態と薬物代謝酵素の遺伝子多型との関係を明らかにした。対象者は、100〜500名の一般健常者で、末梢血を用いてチトクロムP-450(CYP1A1、CYP2E1)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼM1(GSTM1)、N-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)の遺伝子型を判定した。まず、多環芳香族炭化水素の1つであるピレンについては、尿中代謝物である1-ピレノールを測定した。尿中1-ピレノール濃度は喫煙者および肉や魚をより多く食べる人に高かった。対象者を非喫煙者、低喫煙者、高喫煙者の3群に分けて、それぞれの尿中1-ピレノール濃度と薬物代謝酵素の遺伝子多型との関係を調べたが、いずれの代謝酵素の遺伝子多型も尿中1-ピレノール濃度との関係を認めなかった。ニコチンの代謝物であるニコチンの尿中濃度は、低喫煙者群、高喫煙者群ともにCYP2E1のwild typeであるc1/c1型の人よりも、mutant typeであるc1/c2型およびc2/c2型の人で高くなっており、CYP2E1の遺伝子多型がニコチン代謝に影響を与えることが示唆された。カフェイン代謝では同じ量のコーヒーまたは紅茶を摂取しても喫煙者では尿中カフェイン濃度が低くなり、代謝が亢進していることがわかった。また、NAT2のRapid acetylatorの人では、コーヒーあるいは紅茶の摂取が多い傾向が認められた。
さらに、化学発癌耐性ラットおよび感受性ラットに3'-メチル-4-ジメチルアゾベンゼンを投与し、チトクロムP-450イソ酵素の活性を経時的に測定したが、感受性の差を説明するほど顕著な差は観察されなかった。

研究成果

• [文献書誌] Oyama,T.: "N-Acetylation polymorphism in patients with lung cancer and its association with p53 gene mutation" Anticancer Research. 17. 577-582 (1997)
• [文献書誌] Oyama,T.: "Cytochrome P4S0 2E1 polymorphism as a risk factor for lung cancer:In relation to p53 gene mutation" Anticancer Research. 17. 583-588 (1997)
• [文献書誌] Oyama,T.: "p53 mutations of lung cancer are not significantly affected by CYP1A1 or GSTM1 polymorphisms" International Journal of Oncology. 11. 305-309 (1997)
• [文献書誌] 川本俊弘: "鉛則および、有機則に係る生物学的モニタリングの分布区分の経年的推移について" 労働衛生管理. 8・4. 41-51 (1997)
• [文献書誌] Yang,M.: "Studies on the microsomal cytochrome P450s in the livers of carcinogen-resistant and sensitive rats during long-term administration of 3′-methyl-4-dimethylaminoazobenzene" 産業医科大学雑誌(JUOEH). 19・4. 277-286 (1997)
• [文献書誌] Yang,M.: "Effects of lifestyle and genetic polymorphisms on consumption of coffee or black tea and urinary" Biomarkers. (in press).
• [文献書誌] K.S.Subramanian: "Environmental Biomonitoring:exposure assssment and specimen banking" American Chemical Society, 288 (1997)