本研究では、二重染色法によるリンパ球分画の詳細な解析法を導入することによって、産業・環境および地域保健における免疫学的研究を行った。さらに産業医学上の問題の解決に分子遺伝学的手法を用いることを試みた。これらの研究から以下の知見が得られた。 1.芳香族アミン暴露者では、CD4+T細胞数の中でもナイ-ヴT(CD4+CD45RA+T)細胞数が低下し、さらにナチュラルキラー(NK)細胞活性が最も低いNK細胞分画であるCD57+CD16-細胞の数が増加していた。2.二重染色法による喫煙の影響を詳細に調べた結果、喫煙者ではCD4+CD29+細胞数が選択的に増加していることが示された。3.芳香族アミン暴露者とクロム暴露者のリンパ球分画を喫煙習慣も考慮して解析した結果、喫煙によってCD4+T細胞数が上昇することと、クロムのよるCD4+TおよびCD8+T細胞数の低下作用は、芳香族アミンによるCD4+T細胞数低下作用よりも強いことが示唆された。4.クロム暴露作業者では、CD4+TおよびCD8+T細胞のいずれも減少していた。また、CD4+T細胞数のうち、CD4+CD45RA+T細胞数が選択的に減少していた。また、中等度のNK細胞活性を有するCD57+CD16+NK細胞分画が減少していた。5.鉛作業者では、年齢、喫煙を調整後もCD3+CD45RO+T(メモリーT)細胞数が有意に減少していた。また、高濃度の鉛暴露を受けている2名の鉛業者に対して各々10週間および6週間、週3回ずづCa-EDTAを投与した結果、IgG値が上昇するという抗体産生機能の改善を示唆する所見が得られた。6.水銀暴露作業者ではCD4+CD45RA+T細胞及び総CD4+T細胞分画数が対照群よりも有意に低かった。7.7例の悪性胸膜中皮腫の病理標本組織からDNAを抽出し、K-ras、H-rasおよびp53遺伝子の突然変異の有無をSSCP法およびシークエンス法によって解析した結果、これらの遺伝子にはいずれも突然変異が認められないことが示された。
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