研究概要 |
心理的ストレスは、細胞性免疫機能低下を引き起こすことはよく知られているが、妊娠期のストレス時の神経内分泌免疫系の応答については、解明されていない。そこで、妊娠期におけるストレスによってもたらされる内分泌-免疫系への影響を脳内神経伝達物質との関連において明らかにすることを目的に、妊娠ラット(妊娠10-11日)と処女ラットに水浸ストレス(90分と180分)を暴露させ、暴露後の脾臓細胞中ナチュラルキラー細胞活性(natural killer cell activity,NKCA)への影響を調べると同時に、神経免疫系機能との関連が想定されている脳内コルチコトロピン放出ホルモン(vorticotropin releasing hormone,CRH)とドパミン(dopamine,DA)および血中β-エンドルフィン(β-endorphin,βEP)と下垂体-副腎皮質系機能の指標としてのコルチコステロン(corticosterone,CS)とACTHならびにエストラジオール(estradiol,E_2)とプロゲステロン(progesterone,P)への影響を評価した。処女ラット、妊娠ラットともにCS,ACTH,E_2の有意な上昇を認めた。処女ラットのストレス暴露後のNKCAは非暴露群に比べ有意に減少したが、妊娠ラットではその減少は認められなかった。視床下部CRHの有意な減少と前頭葉皮質と側坐核におけるDA代謝率,P,βEPの有意な増加は、処女ラットにおいてのみ認められた。なお、妊娠ラットのE_2とPは処女ラットに比し、有意な増加が観察され、またNKCAにおいては有意な減少が認められた。以上より、妊娠期のストレス時には、細胞性免疫能の低下が抑制され、ストレスに対するホメオスターシスが維持されるが、そこには、中脳-皮質および中脳-辺縁系DA活性および視床下部CRHが関与するという脳内神経伝達機構が想定された。また、Pに代表される胎盤系と下垂体あるいは胎盤由来のβ EPの作用と協調して、妊娠によるストレス時の細胞性免疫低下に対する抑制作用が発現することが推定された。
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