本研究の一環として行った各種調査から、以下のような点が明らかにされた。 1)大阪府内の保健所設置自治体の担当者より資料提供を受け、平成6年度の特定疾患患者に対する保健所事業の実績を比較検討した。保健所が把握している神経難病(9疾患)患者は府全体で人口10万人当たり54.3人。把握患者のうち1年間に訪問指導を行った割合は35.7%。特定疾患全体の年間訪問指導延数のうち神経難病に対する訪問指導が占める割合は73.5%であった(特定疾患患者数に占める神経難病患者数は22.5%)。保健所ではとくに神経難病に重点的に訪問指導が行われている。神経難病患者1人当たりの訪問回数は平均で年間3.7回。患者交流会や療養相談会などの集団援助事業も、いずれの自治体でも取り組まれてきていたが、保健所設置自治体間で実績に差が認められた。保健所事業の評価研究を発展させるとともに、自治体間、保健所間の情報交換を継続しながら、より効果的な事業を開発していくことが課題である。 2)大阪府内のパーキンソン病患者の郵送調査(648名回答、回答率71%)より、保健婦訪問は61%、患者交流会は31%、医療相談会は45%の患者が利用していることが示された。しかし自治体間で差がみられた。障害が重度の患者についてみると、保健婦訪問を頻回受けている群ほど福祉サービス等の利用の割合が高く、保健婦がケアコーディネーションの役割を担っていることが示唆された。患者交流会をより頻回利用している群では療養姿勢が積極的であることが示された。 3)神経難病患者の主観的QOLの状況とその関連要因を明らかにするため、101名の患者の訪問調査を行い、有効回答が得られた85名(後縦靭帯骨化症25名、パーキンソン病24名、骨髄小脳変性症14名、等)について分析した。QOL得点に有意の関連がみられた項目は「患者自身病気についての知識を得ようとしているか」「本人の職業の有無」「経済援助者の有無」「家計の余裕」「ADL」「外出頻度」であった。このほか「生活充実感」には「ソシャルサポート」が有意に関連しているた。患者の主観的QOLを高めるための援助では、患者の医学的治療や直接本人に働きかける支援のみならず、本人を取り巻く環境面の要因にも目を向けていくことが重要である。
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