昨年度までに、変異原物質に対する感受性と個人レベルにおいて評価する目的から、一般健常人の集団を対象として、自然誘発小核頻度とX線ならびにコルヒチン誘発小核頻度の分布を測定し、統計学的に解析した。その結果、自然誘発小核頻度に加え、変異原誘発小核頻度にも明らかな個体差が存在することを明らかにした。さらに、変異原に対する感受性の個体差を生じさせる宿主側要因として、血清の坑酸化能に着目し、電子スピン共鳴法によって血清のヒドロキシルラジカル消去能を測定・評価し、この指標と自然小核頻度や血清ビタミン濃度とのとの関連について検討した。本年度は、自然誘発小核を坑動原体抗体法によって染色し、染色体切断型異常と消失型異常に分類をした上で、それぞれの染色体異常のタイプに対する抗酸化性ビタミン濃度の関連性について検討した。 健常一般集団33名を対象にサイトブロック小核試験を実施し、動原体陽性小核と陰性小核の出現頻度から、各個人の染色体切断型異常と消失型異常の誘発感受性を調べた。同時に採取した血清のビタミン濃度(葉酸、ビタミンC、E、B12、ベータカロチン)を定量した。小核頻度を従属変数、各種ビタミン濃度と年齢を独立変数とした重回帰分析の結果、血清葉酸濃度が消失型・切断型異常の両タイプの染色体異常の発生に負に関連し、ビタミンC濃度が消失型異常に正に関連し、また切断異常にも正に関連する傾向が認められることを明らかとした。本年度の研究結果はこれまでの知見と考え合わせると、小核頻度の個体差を生じさせる宿主側要因として、年齢の他、葉酸やビタミンCの血清中水溶性ビタミン濃度が重要な要因として関連いることが示唆された。
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