研究概要 |
化学発癌では、細胞がイニシエーションを受けてからいくつかの段階を経て癌化すると考えられており、DNA損傷が修復の段階で点突然変異や染色体切断をおこし、そのイニシエーションとなると考えられている。平成7、8年度において、申請者らは真核細胞である酵母におけるDNA損傷検出系について研究を行い、その成果を既に報告した。平成9年度においては、申請者らはヒト細胞を用いてDNA損傷を検出する系を確立するための基礎的検討として、化学物質曝露による損傷応答遺伝子および修復遺伝子の挙動について実験した。ヒト細胞としてHeLa細胞およびヒトリンパ球を用い、損傷応答遺伝子としてgadd153遺伝子、修復遺伝子としてヌクレオチド除去修復(NER)遺伝子のうちXPB,XPD,XPG遺伝子を観察した。XPB,XPD,XPG遺伝子のmRNAは、4NQOおよびUV曝露の有無にかかわらず常に一定レベル発現し、4-ニトロキノリンオキサイド(4NQO)および紫外線(UV)曝露による顕著な誘導はみられなかった。一方、gadd153遺伝子のmRNAは、常にある程度は発現しているが、4NQO、UV、またはメチルメタンスルホン酸曝露により顕著に誘導された。これらのことから、DNA損傷を検出する系として、gadd153遺伝子の有用性が確認された。これらの結果については、日本衛生学雑誌52巻p476に発表した。
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