研究概要 |
平成7年度は計画書に則り、以下の研究結果を得た. 1.凍結保存と冷凍保存の有効性:代表的な有機溶剤であるトルエン,トリクレンについて,凍結保存および冷凍保存し,尿中有機溶剤濃度の経時変化を調べた結果,凍結保存では,1日目で濃度は急速に減少した.凍結時に揮発性有機溶剤が気中に揮散したと考えられた.冷凍保存では徐々に濃度が減少した. 2.試料容器の空間の影響:尿を容器内で満水にした状態と半量状態で保存性を比較した.満水・冷蔵保存では,トルエンおよびトリクレンとも回収率は保存3日目で95%以上と良好であった.満水の凍結保存は凍結時の液体の膨張のためにできなかった.半量状態では,冷蔵および凍結保存とも,3日後の濃度は80%以下となった.保存15日後の濃度は,[満水・冷蔵]>[半量・凍結]>[半量・冷蔵]であった. 3.β-シクロデキストリン誘導体の尿への添加:水溶性のβ-シクロデキストリン・ヒドロキシアルキル誘導体(CD)を尿へ添加(CD濃度1.7, 0.8, 0.4W/V%)すると,CDの添加量が多いほど,トルエンおよびトリクレンとも保存性が向上(10〜15%)した.さらに,CDを添加した場合,凍結保存も有効であった. 4.尿中有機溶剤測定(キャピラ-ガスクロマトグラフ法)の標準液の多成分同時調整方法:n-ヘキサン,トリクレン,パークレン,トルエンおよびm-キシレンをCDの10W/V%水溶液に溶かして標準液とした(濃度は各々,77,110,98,95,82μmol/L).n-ヘキサンを除く4溶剤の回収率は,2日後で95%以上と安定であった.CDが有機溶剤と抱接化合物を形成することを利用して,標準液の多成分同時調整方法が開発できた. 満水保存の有効性と水溶性β-シクロデキストリン誘導体の添加保存の有効性,さらに,尿中有機溶剤の測定方法を確立することができた.ほぼ平成7年度度の計画書通りに研究を進めることができた.平成8年度は,有機溶剤の個人暴露濃度と尿中濃度の関係を追求する計画である.
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