研究概要 |
本研究では,尿中有機溶剤測定のための有効な(現場で利用できる)尿試料の採取及び保存方法(有機溶剤の揮発性に対処できる)を開発すること,特に本年は,開発された尿試料の採取及び保存方法を用いて,実際に現場で,有機溶剤暴露濃度と尿中濃度を測定し,両者の関係を明らかにすることを目的とした. 平成8年度は計画書に則り,以下の研究結果を得た. 1)暴露濃度と尿中濃度の関係:有機溶剤作業場で,作業者の有機溶剤暴露濃度測定(個人暴露濃度用ガスバッジを使用)と尿中有機溶剤濃度測定を実施し,両者の関係(回帰式,相関係数)を求めた.有機溶剤の暴露濃度(x)と尿中濃度(y)は,よい直線関係を示した.相関係数および回帰式は,トルエン[r=0.950,y=0.0270x],MIBK[r=0.900,y=0.352x],MEK[r=0.919,y=0.519x],IPA[r=0.940,y=1.095x]であった. 2)許容濃度暴露相当の尿中濃度:上記で求めた回帰式から,許容濃度暴露に対する尿中濃度を算出した.各々の有機溶剤の暴露濃度と尿中濃度の回帰直線から求めた100ppm有機溶剤暴露相当値は,トルエン=2.70,MIBK=35.2,MEK=51.9,IPA=110μmol/Lであった. 3)尿濃度の補正:尿中代謝物では,尿濃度の補正のためにクレアチニン補正,比重補正が有効であることが報告されているが,尿中有機溶剤の場合の有効な補正法について検討した.有機溶剤の曝露濃度と,尿中有機溶剤の(1)未補正濃度,(2)クレアチニン補正濃度および(3)比重補正濃度との相関係数を比較した.その結果,尿中代謝物のように,補正を加えても相関係数は改善されなかった.未補正値の相関係数がもっとも1に近かった. 本研究により,尿中有機溶剤測定のための尿試料の保存方法が確立でき,曝露濃度と尿中濃度に強い直線性があることが示せた.今後,暴露指標としての尿中有機溶剤の研究が加速的に進展するものと考える.
|