1.目的;シガレット煙中には、ベンツピレンを初めとして多くの芳香族化合物やニトロソ化合物などの発ガン性物質の存在が報告されているが、マウスへのシガレット煙曝露実験報告のほとんどは陰性である。本実験では、感受性が高いと考えられるヒト正常型c-Ha-ras遺伝子導入transgenic mouseを作製し、シガレット煙曝露実験を行った。 2.方法;シガレット煙曝露は、実験1;シガレット煙の主流煙を10倍希釈して週3回、一回20本、36週曝露、実験2;シガレット煙の主流煙を5倍希釈して週3回、一回20本、46週曝露、実験3;シガレット煙の主流煙を5倍希釈して週3回、一回80本、61週曝露の条件でシガレット煙の曝露実験を行った。 3.結果および考察;マウスの体重変化では、いずれの実験においてもシガレット煙曝露群と非曝露群間に差は認められず、シガレット煙曝露の影響は観察されなかった。 実験1および2においては気管支においては、上皮細胞の不整配列、肥厚像が認められ、また肺胞についても肥厚像が認められた。しかし悪性腫瘍は観察されなかった。 実験3においてはtransgenic mouseでシガレット煙曝露群の1個体、非曝露群の2個体にadenocarcinoma像が認められた。しかしこれらの肺組織かたのgenomicDNA抽出後、PCRを用いて遺伝子解析を行った結果、transgenic mouseを作製する際に組み込んだc-Ha-ras遺伝子が確認された。以上から、本曝露実験でのシガレット煙濃度は腫瘍を誘発するのに有効な濃度ではなかったのかもしれないが、シガレット煙単独曝露での発ガン性は微弱なものであるという可能性は不定しえないと思われる。
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