研究概要 |
代謝酵素系の活性の相違から導かれる代謝能の個人差は,薬物治療や中毒状態の判定に際して重要な意味をもつと考えられる.そこで我々は,代謝能の遺伝子診断の方法を確立するために,薬毒物代謝酵素の多型をDNAレベルで解析した.すなわち,多くの薬毒物をグルタチオン抱合するグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GSTM1)およびアセチル化酵素であるN-アセチルトランスフェラーゼ(NAT2)の遺伝的多型を解析した.用いた試料は健常日本人および白人から得たDNAである.その結果,日本人の49%,白人では9名中5名がGSTM1欠損者であり,また日本人の9%,白人では9名中4名がNAT2のallele 1を有さないslow acetylatorであると判定された. 一方,個人差,人種差を示す代謝酵素が,動物進化の過程でどのように変化してきたかを知ることは,その生物学的存在意義を解明するためのひとつの手段であると考えられる.エタノール代謝に関与するアルコール脱水素酵素(ADH2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は,酵素活性の差異,コードするDNAの多型と代謝能との関連,人種差等が明らかにされてきているが,これら酵素は各種の動物にも存在することが知られている.そこでまず,ヒトとニホンザルとの間でALDH2遺伝子の塩基配列を比較した.その結果,両者にはかなりの相同性がみられた.
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