研究概要 |
薬物代謝の個人差を代謝酵素をコードするDNAの多型としてとらえ,これを臨床面や法医学・法中毒学領域へ応用,あるいは人類学へと発展させるべく,以下の研究を行なった. 1.DNA試料からの薬毒物代謝酵素遺伝子型判定 多くの薬物や発癌性化学物質をグルタチオン抱合により解毒するグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GSTM1),芳香族アミノ基やヒドラジン基を有する多くの薬毒物を代謝するN-アセチルトランスフェラーゼ(NAT2)について,それらの遺伝子型のDNA試料から判定する方法を確立した.数十名以上の日本人,ヨーロッパ白人その他の集団から得たDNA試料を用いて解析したところ,GSTM1の遺伝子型に関しては,ホモ接合性の遺伝子欠失により惹起されるところのGSTM1欠損を示す者はどの集団でも約半数であった.また,NAT2の遺伝子型に関しては,日本人では約10%が,白人では約半数がNAT2のallele 1を保持せず,slow acetylator であると判定された. 2.アルデヒド脱水素酵素遺伝子塩基配列の種差 代謝能の個人差発現の生理学的意義付け,進化論的位置付け解明への手がかりとして,ヒトのアルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH2)の塩基配列をニホンザル,ネコ,ウサギのそれと比較したところ,両者に顕著な差は認められなかった.さらに,塩基配列から指定されるアミノ酸配列を比較すると,ヒトにおいて「欠損型」酵素であるか「正常型」酵素であるかを決定している第487アミノ酸は,調べたすべての動物でグルタミン酸であり,ヒトの「正常型」酵素のそれと同じあった。
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