死後経過時間を推定するために脳脂質をとりあげその変化を調べてきた。剖検例(44例)では大脳頭頂部の一部を灰白質と白質に分けて調べた。脂質の変化は灰白質が白質よりも大きく、死後経過時間の長い脳試料の総脂質におけるリン脂質の割合は減少し、遊離脂肪酸量は増加する傾向にあった。 剖検例では死体の条件が異なっているので、ラットを用いて調べた。ラットをペントバルビタール腹腔内投与で屠殺し、脂肪直後と室温1、2、3、4、5日放置したものから、脳をとりだし頭頂部付近を用いて調べた。遊離脂肪酸量は死亡直後は112±38、1日は477±62、2日は753±95、3日は1189±424、4日は1944±683、5日は2860±915(μEq/ml、各群7匹)であり、死後の日数により次第に増加したが、3日以上の群では個体差が大きかった。遊離脂肪酸の組成をみると直後では18:0が最も多く30%程度を占め、4-5日では18:0と16:0と20:4の割合は減少し、22:6と18:1は増加した。リン脂質量は死後日数が経過すると減少する傾向にあった。 つぎに1日以内の短時間の変化をみるために、23℃の恒温槽で、3、6、16、24時間放置したラット(各群4匹)について調べた。また、屠殺を窒素置換、断頭、ペントパルビタール麻酔の3条件で行い比較した。遊離脂肪酸量は時間経過とともに増加した。24時間の量は窒素置換によるものが、他の条件のものよりも多かった。死亡直後の18:0の割合が麻酔死では他のものよりわずかに多かったが、遊離脂肪酸の組成は3、6、16、24時間ではほとんど変化はみられなかった。リン脂質量は24時間以内では3条件ともほとんど変化がなかった。今後、30℃、15℃と温度を変えて調べていく予定である。
|