ラットの脳脂質の死後変化を調べ、脂質の変化に対する屠殺方法と死体放置温度の影響を比較した。窒素置換による酸素欠乏、断頭、またはペントバルビタール腹膣内過量投与による麻酔によって屠殺した。屠殺後のラットは15℃、23℃、30℃のいずれかの温度に放置した。屠殺直後、3、6、16、24、48、72、96、120時間後に大脳を取り出し、その円蓋部付近と脳底部付近の2部位について総脂質量とリン脂質量、遊離脂肪酸量を測定し、遊離脂肪酸の脂肪酸組成を求めた。死後経過時間とともにリン脂質量は減少し、遊離脂肪酸量は増加した。遊離脂肪酸は死後経過時間とともに18:0、20:4の比率が減少し、22:6の比率が増加した。屠殺方法の影響を比較すると、麻酔で屠殺した例では遊離脂肪酸の増加が窒素置換または断頭で屠殺した例よりもやや少なかった。その他の脂質の変化は屠殺方法による大きな違いは見られなかった。いずれの屠殺方法でも死亡するまでの時間が5分以内と短時間であったので脂質変化への影響が少なかったと思われた。同じ方法で屠殺しても固体差は大きく23℃でも死後経過時間が長くなるとかなり大きな固体差が認められた。死体の放置温度の影響を見ると、15℃においては脂質の変化は全体的に少なかった。23℃と30℃では一般に30℃の方が脂質の変化は大きかった。 ペントバルビタールを腹腔内投与し、5-60分後に断頭した例と、ペントバルビタールを腹腔内投与して5、15または30分後に死亡した例について脳脂質の死後変化を調べた。遊離脂肪酸量は麻酔断頭例では断頭までの時間によらずほぼ同じ値であったが、麻酔しないで断頭した例よりもその値は低かった。麻酔例では15、30分とも遊離脂肪酸量はほぼ同じであったが5分で死亡したものよりその値は低かった。今後更に例数を増やし、また、脳死例も検討していく予定である。
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