死後経過時間を推定するために脳脂質をとりあげその変化を調べてきた。剖検例について、総脂質量、リン脂質量、遊離脂肪酸量とその脂肪酸組成の変化と、死後経過時間の関係をみた。その結果、死後経過時間が長くなるとリン脂質量は減少し、遊離脂肪酸量は増加する傾向がみられた。 ラットを窒素置換(窒息群)、断頭(断頭群)、ペントバルビタール麻酔(麻酔群)の3種類の方法で屠殺し、15、23、30℃で0-120時間まで放置して脳脂質の死後変化を調べた。死後経過時間とともにリン脂質量は減少し、遊離脂肪酸量は増加した。遊離脂肪酸の組成をみると死後経過時間とともに18:0、20:4の比率が減少し、22:6の比率が増加した。死体の放置温度の影響を見ると、15℃では脂質の変化は全体的に少なく、23℃と30℃では一般に30℃の方が脂質の変化が大きかった。屠殺方法の影響をみると、麻酔群では遊離脂肪酸の増加が窒素群または断頭群よりもやや少なかった。その他の脂質の変化は屠殺方法による大きな違いは見られなかった。3方法とも死亡するまでの時間が5分以内と短時間のため脂質変化への影響が少なかったと考えられた。麻酔群で遊離脂肪酸量が少ない傾向があり、ペントバルビタールの影響が考えられたので、ペントバルビタール投与から死亡までの時間を長くして検討した。麻酔後に断頭した例では、ペントバルビタールを投与しないで断頭した例よりも遊離脂肪酸量は低かった。ペントバルビタール投与15、30分後に死亡した例では5分で死亡した例より遊離脂肪酸量は低かった。今年度はラットの死後経過時間と死後変化の関係をみた。今後は脳死後の経過時間について検討する予定である。
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