研究概要 |
死後の組織学的変化に関する研究は臓器移植の視点からの報告は多いが,法医学的視点に立ったものはほとんど見られない。また,組織学的検索は法医実務上重要な位置を占めているが,光学顕微鏡的観察に通常用いられるホルマリン固定法は,その固定能力が低い為に固定完了までに死後変化が進むことが知られている。 各種死因に特徴的な組織学的変化が死後変化によりいかに修飾されるかを明らかにするために,本年度はラットを頸椎脱臼にて屠殺し,その直後および室温放置1,3,5,10,15,24時間後に解剖し,腎臓・肝臓・膵臓・心臓・骨格筋・脳および肺臓を摘出し,ホルマリン固定後パラフィン包埋してHE染色した標本および,グルタールアルデヒド・四酸化オスミウム固定後エポキシ樹脂包埋してトルイジンブルー染色した標本について比較検討を行い,以下の結果を得た。 1.パラフィン包埋法ではその固定能力が低いために,死後変化の指標となるミトコンドリアの膨化変性・核クロマチンの凝集等が組織固定中にも進行し,臓器によって多少の差はあるものの,死後5から10時間までの経過時間推定は難しいことが明らかとなった。 2.エポキシ樹脂包埋法では死後変化の指標となるミトコンドリアの膨化変性・各クロマチンの凝集等が経時的変化として認められ,その出現時期が各臓器に特異的なことから,これらを組み合わせる事により早期の死後経過時間の指標の1つとして利用できるものと思われた。 3.死因モデルを用いた死後変化の検討については現在予備実験を行っており,N_2による窒息・溺水・KCl投与では腎臓,肝臓,心臓,筋肉,肺にそれぞれ特異的な所見が認められ,来年度予定している死因別の経時的変化検討の基礎的データを得た。
|