研究概要 |
我々は膠原病に合併する肺高血圧(pH)症例の呼気中一酸化窒素(NO)を測定し,肺におけるNO産生動態を検討した。呼気中NOの多くは鼻咽頭粘膜由来であるが,マウスピースや鼻クリップの使用による測定は下気道からのNO産生を反映し,肺血管内皮機能の解析に有用と考えられる。pHを合併する強皮症とその関連疾患18症例,正常対照例15例(平均年令44±11歳)を対象とした。18例中13例(51±13歳)ではpHの原因が肺血管病変であり、5例(47±9歳)は肺線維症であった。安静座位,座位自転車による運動漸増負荷(6W/sec)中にNO濃度,排出量を測定した。マウスピースの先に呼気ガス分析器に付属する熱線流量計を付け,連続的に呼気量を測定した。被験者の呼気を流量計の部分につけたサンプリングチューブで集め,そのNO濃度をchemiluminescence法によるNO濃度測定器(米Sievers社製,NOA)で測定した(測定可能範囲:3ppb-100ppm)。呼気ガス分析器(ミナト社製,RM-280)より呼気量を連続的に記録し,呼気中NO濃度の平均値と分時換気量を乗じ,NO排出量を求めた。その結果正常対照例では,NO排出量が運動負荷で安静時と比べて倍以上に増加したが,肺血管病変群では有意な増加がみられなかった(P<0.001)。肺線維症群においては,NO排出量は安静時,運動負荷時共に,対照群,肺血管病変群と比べて有意に低値を示し(p<0.01),肺血管床の減少が原因と考えられた。pHを合併する症例で運動負荷時にNO排出量の有意に増加しないのは,運動負荷時の毛細血管床の増加が不充分である事が原因と考えられた。これらの症例ではNO吸入が肺血管抵抗を減じ,pHに対する補充療法となる可能性がある。実際の投与方法やNO濃度が今後の研究課題である。
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