研究概要 |
ヒト膵癌の90%にk-ras癌遺伝子の点突然変異が認められ,rasの遺伝子産物である活性型p21rasを分子標的とする阻害剤の開発が注目されている.p21ras蛋白はそのC末端がfarnesyl化され細胞膜に結合し,初めてその機能を発揮する.farnesyl化阻害剤である(α-hydroxyfarnesyl)phosphonic acid(HFP),farnesylamine(FA)の膵癌細胞とNIH3T3 fibroblastのras形質転換細胞(ras細胞),raf-形質転換細胞(raf細胞)を用いて,p21rasのfarnesyl化抑制,各細胞に対するcytotoxicity,アポトーシス誘導について検討した.また,従来からfarnesyl化阻害剤として知られているgliotoxin,manumycinとの抗腫瘍活性についても比較し,さらにヌードマウスに移植したras細胞に対するFAの腫瘍増殖抑制効果についても検討した. (研究結果) 1.farnesyl化阻害剤はp21rasのfarnesyl化を抑制した.FAのIC50は約3μMであり,FAの添加後約18時間後に抑制された. 2.farnesyl化阻害剤のHFP,FA,gliotoxin,manumycinはそれぞれ濃度依存性にPK-1細胞,ras細胞に対しcytotoxicityを示した. FAとHFPはPK-1,ras細胞に対し選択的にcytotoxicityを示したが,NIH3T3,raf細胞にはcytotoxicityを示さなかった. gliotoxin,manumycinはras細胞に対する選択的cytotoxicityを示さなかった. 3.HFP,FA,gliotoxin,manumycinはそれぞれ50,3,0.3,10μMの濃度よりPK-1,ras-細胞にアポトーシスを誘導した。 HFP,FAはそれぞれ100,30μMの濃度でもNIH3T3にアポトーシスを誘導しなかった.raf細胞ではras細胞より高濃度で初めてアポトーシスの誘導を認めた. 4.FAによるアポトーシス誘導時にICE様プロテアーゼである32KDaのCaspase3が活性化され,17KDaの活性型を形成することが確認された. FAの50mg/Kg体重/日のi.p.投与はヌードマウス皮下移植ras細胞の増殖を対照に比べ有意に抑制した. (結語) farnesyl化阻害剤,特にFAは活性型p21rasの脱farnesyl化によりRas-Raf-MA PKのシグナル伝達を抑制し,ICE様プロテアーゼの活性化を介し,膵癌細胞およびk-ras形質転換細胞特異的にアポトーシスを誘導した.FAはヌードマウス移植腫瘍の増殖を抑制し,膵癌特異的癌化学療法の可能性が示された.
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