研究概要 |
1.膵炎モデル動物でのNO産生とその機序の解析;重症致死性膵炎モデル(TCA膵炎)と軽症浮腫性膵炎モデル(セルレイン膵炎)を比較し、前者で特異的に血清NOxが上昇し、その機序として腹腔、肺胞Mφを中心とする炎症細胞でNF-κBとIRF-1の活性化が生じ、iNOS発現が惹起されることを明らかにした。 2.IFN-γ monoclonal antibodyとPDTCの効果;これらは、いずれもTCA膵炎におけるNOの過剰産生を抑制し、動物の生存率は著しく向上した。PDTCは細胞内活性酸素を消去するため、重症膵炎におけるNF-κBの活性化は炎症細胞内のredox状態の変化によって生じる可能性を示唆した。一方、NOS阻害剤はNO産生を抑制するものの、生存率をむしろ悪化させた。 3.Cu/Zn-SOD transgenic miceでの検討;Cu/Zn-SOD過剰発現マウスでは、膵炎の程度は軽減された。また、少量のLPSは膵内Mn-SOD活性を増加させ、膵炎の重症化を予防する可能性も示された。すなわち、iNOS発現によるNOの組織障害性と予防的に働くSODは共に外因性炎症mediatorにより細胞内redoxの変化によって誘導され、両者の不均衡が臓器障害を惹起する可能性が考えられた。 昨年度の検討の結果、膵炎の重症化と致死には生体内でのNOの過剰産生が関与すること、NO産生にはIFN-γによる炎症細胞のprimingと、LPSによるtriggeringが重要である可能性が明らかになった。しかし、研究過程で、軽症膵炎モデルでも肺胞MφにおけるNF-κBとIRF-1が弱いながら活性化されていることが示され、priming時に既にこれら転写調節因子に変化が生じている可能性が示唆された。triggeringに最も重要な転写調節因子は何かが問題であり、GAS,IRE,ESR-E,TNF-RE,AP-1等の解析を付加して行う必要がある。また、in vitroでのMf/monocyteを用いたより直接的な実験も行う必要がある。 ヒト重症膵炎における多臓器不全の最終effectorは何か不明である。また、その機序にNOが関与するかどうかを検討した報告はない。ヒト血中monocyteの活性化状態、NO産生能、cytokine産生能、またそれらと転写調節因子の役割の解析は最も重要な目標である。NAC,PDTCの膵炎重症化抑制薬剤として使用可能がどうかも、引続き検討したい。
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