研究概要 |
平成7年度から9年度の間に得られた知見は以下の通りである。 1)膵臓における熱ショック蛋白質の合成誘導に関して 各種ストレス負荷後の熱ショック蛋白質の発現量をWestern blot,デンシトメーターを用いて解析した。粋浸拘束ストレスによって、ラット膵臓(膵線房細胞)において合成が誘導される蛋白質は60-kDa熱ショック蛋白質(HSP60)のみであった。これに対し、温熱ストレス(42.5℃、20分)を負荷した場合、72-kDa熱ショック蛋白質(HSP72)の合成が膵臓で特異的に誘導されることが明らかになった。2)膵臓におけるHSP細胞防御作用について 膵臓においては水浸拘束ストレスによりHSP60を特異的に前誘導しておいた場合、セルレイン誘発急性浮腫性膵炎、およびL-アルギニン誘発懐死性膵炎を発症を、HSP60の発現量依存性に抑制し得ることが明らかとなった。一方、温熱ストレスによりHSP72を特異的に前誘導しても膵炎の抑制効果は認められなかった。よって、膵線房細胞における細胞防御機構においては、HSP60が極めて重要と考えられ、in vitroの実験系では多くの細胞において細胞防御因子として重要とされるHSP72は関与していない可能性が示唆された。3)膵臓におけるHSP発現に及ぼす中枢神経ペプチドの影響 水浸拘束ストレスによって膵線房細胞で誘導されるHSP60の更に詳細な誘導機構を解明するため、ストレス関連神経ペプチドであるCRF,TRHをラットの脳室内に投与し、各種HSPの発現を検討したところ、CRF投与によりHSP60が、TRH投与によりHSP60、72が膵線房細胞において誘導されることが明らかとなった。これらのことより、膵線房細胞の内因性細胞防御因子として重要なHSPの発現は、中枢神経系によって制御されている可能性が示唆された。4)他の消化器系臓器における臓器のHSPの発現、機能に関して 異粘膜、大腸粘膜、肝細胞における内因性防御因子としての各種HSPに関しても検討したところ、異粘膜ではHSP72、大腸粘膜ではHSP72、90、肝細胞ではHSP72が細胞防御機構に重要で、膵線房細胞とは異なることが明らかになった。 上記の研究成果により、in vivoでは臓器間で細胞防御機構に重要なHSPの種類が異なることが明らかとなり、膵線房細胞においては、HSP60を特異的に誘導することが、治療への応用を考慮した場合には効果的であることが示唆された。よって、1),3)で明らかにした、HSP60の特異的な誘導法は特に重要であると考えられた。また、2)の結果より、HSP60の作用部位は膵炎誘発物質の機能の阻害ではなく、様々な非特異的原因で出現する変性蛋白質などを標的とし、分子シャペロンとして機能している可能性が示唆された。
|