膵癌では80-90%にK-rasコドン12に変異が検出されるため、膵癌のよいマーカーになり得ると考えられる。そこで膵癌患者より内視鏡的に膵液を採取しDNAを抽出、変異Ras遺伝子を高感度に検出可能なPCR法を開発して調べたところ、全例で変異ras遺伝子が検失され、膵癌の診断に応用できる可能性がある。しかし、その後膵過形成を含む非膵癌患者の膵液検体の解析を増やしたところ、その約40%の症例にも変異ras遺伝子が検出されることが判明した。膵疾患と無関係な一般剖検膵でも膵管上皮の過形成は存在することが報告されているが、我々はこの過形成からも変異ras遺伝子が認められることを明らかにした。当初の解析では膵癌にはGGT(Gly)->GAT(Asp)またはGTT(Val)が多く、膵過形成にはGGT(Gly)->TGT(Cys)が多い傾向がある。さらに症例数を増やしてアミノ酸の変異に偏りがないかを検討している。また、種々の変異をもつras遺伝子のcDNAを発現ベクターに組込み、野生型のras遺伝子をもつ細胞株に強制発現させている。これらの変異ras遺伝子強制発現株について、様々な条件下における細胞増殖能、DNA合成、MAP Kinase活性の測定、Raf 1-kinaseとのinteraction、細胞の癌化能(フォーカスアッセイ、ヌードマウス造腫瘍性、コロニーアッセイ)などを調べ、各々の細胞株でどのような違いが見られるかをしらべており、Rasのアミノ酸変異の種類と膵癌、膵過形成の表現型に何らかの関連があるかを検討中である。
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